医師国家試験解説(118A10)
第118回医師国家試験A10番は梅毒に関する問題です。
梅毒で誤っているのはどれか。
a. TPHAは疾患活動性の指標となる。
b. 他の性感染症の合併について検索する。
c. 神経梅毒は感染からの期間を問わず起こる。
d. 妊婦が未治療の場合、児の先天梅毒の原因となる。
e. 日本では10年前と比較して報告数が増加している。
a. TPHAは疾患活動性の指標となる。
→誤り
梅毒の検査であるSTSとTPHAについての選択肢です。
STS(serologic test for syphilis)はカルジオリピンを抗原とする非特異的検査であり、代表的な検査としてRPR(rapid plasma regain)が挙げられます。感染初期から上昇し、梅毒治療により低下するため治療効果判定に用いることができます。しかしながら、非特異的検査であるため生物学的偽陽性があることがデメリットです。
TPHA(treponema pallidum hemagglutination test)は梅毒の特異的検査です。名前に梅毒の起因菌であるtreponema pallidumの頭文字である”TP”と付いていることから特異的な検査であることはイメージしやすいと思います。TPHAは特異的検査であるため陽性であれば(現在か過去かは分からないものの)梅毒に感染したことがあるこが分かります。しかしながら、梅毒の既感染でも上昇するため、TPHA陽性であっても必ずしも現在感染しているとは限りません。
したがって、既感染でも陽性となるTPHAではなく、治療によって低下するSTS(RPR)が活動性の指標といえます。
b. 他の性感染症の合併について検索する。
→正しい
性感染症である梅毒は、同じく性感染症のクラミジアやHIV感染と合併していることが少なくないため検索が必要となります。
c. 神経梅毒は感染からの期間を問わず起こる。
→正しい
梅毒は進行度に応じて第1期(初期)〜第4期(晩期)に分類されます。
神経梅毒は第3-4期で見られる症状であると記載されている教科書もあるため、「感染からの期間を問わず起こる」という選択肢は誤りであるように思われますが、実際には神経梅毒が早期から発生することもあります。国立感染症研究所によると早期神経梅毒は髄膜炎や脳梗塞などを呈する場合があり、晩期神経梅毒は脊髄癆や進行麻痺を呈するとされています(1)。
学生レベルの教科書や予備校テキストで勉強していて「神経梅毒は第3-4期の症状である」と覚えていた受験生にとっては引っ掛け問題となるためやや微妙な出題に感じます。
d. 妊婦が未治療の場合、児の先天梅毒の原因となる。
→正しい
WHOの報告によると、梅毒未治療の場合、妊娠中の初期梅毒では40%が胎児死亡・周産期死亡に至り、妊娠前4年間の梅毒罹患では80%が胎児感染を起こし、さらに生存児にも先天梅毒の諸症状が認められたと報告されています(2)。
e. 日本では10年前と比較して報告数が増加している。
→正しい
国立感染症研究所によると、梅毒感染は2000年代には500-900例程度であったものの、2011年頃から増加傾向となり、2019年から2020年に一旦減少したものの(COVID-19の影響でしょうか)2021年に再度増加に転じ、2022年の感染者数は10,141例と報告されています(1)。
発症者の年齢は男性は20-50代と幅広く分布している一方で、女性は20代に多いです。また、感染者のうち男性の4割が性風俗を利用しており、女性の4割が性風俗に従業しているとのことです(1)。データはありませんが、マッチングアプリの普及なども影響しているかもしれません。
参考文献
(1)国立感染症研究所HP
(2)産婦人科診療ガイドライン産科編2023 CQ613